内村 愛
言語聴覚士
医療デザイナー

言語聴覚士として10年以上、摂食・嚥下を中心にリハビリテーションに携わってきました。
臨床の現場にいると、医療者にとっては当たり前でも、患者さんやご家族には意外と知られていない大切なことがたくさんあると感じます。
知っていれば選択肢が増えたり、少し希望が持てたりすること。
便利な商品や、日々の負担を軽くしてくれる工夫。
けれど、日々の臨床ですべてを伝えることはできません。
「ここに来れば、食べることに困ったときに必要な情報を探せる」
そんな場所をつくりたいと思い、食リハキッチンを始めました。
そして、臨床でもこのサイトでも大切にしているのが、患者さん・ご家族・医療者、それぞれにとっての「ちょうどいい」を探すことです。
「できない」を「これならできる」に
患者さんやご家族に「こうしたい」「こうしてあげたい」という思いがあるように、医療者にも「できることなら応えたい」という思いがあります。
けれど医療現場には、安全性や時間、人手など、さまざまな制約があります。
すべての希望にそのまま応えることは難しい。
だから私は、「できる・できない」の二択ではなく、「これならできる」に変えられないかを考えてきました。
ご家族ができることを一緒に探す。
安全に行える方法や範囲を考える。
患者さんに合いそうな商品を探して試す。
今あるものや仕組みを、少し違う視点から見直してみる。
患者さんやご家族の思いと、医療者が安全に支えられる範囲。
その間にある**「ちょうどいい」**を探して、無理なく続けられる形にする。
大きな問題を一気に解決するというより、モヤモヤした消化不良感の中にいる人が、少し前へ進めるようにする。
そんな仕事ができたとき喜びを感じます。
モノより、コトをデザインする
必要なものがあれば探す。
今あるもので実現できるなら、それを使う。
なければ工夫し、それでもなければ新しくつくる。
でも、私がつくりたいのは、モノそのものではありません。
より良い「コト」を実現するために、人・情報・モノを組み直す。
振り返ってみると、臨床の中でずっとやってきたことは、そんな「デザイン」だったのだと思います。
そこから、これまで臨床で培ってきた経験を生かし、**「摂食・嚥下領域の医療デザイナー」**として、臨床の外にも活動を広げていきたいと考えるようになりました。
「口から食べること」を唯一の正解にしない
食リハキッチンという名前ですが、「最期まで口から食べること」を唯一の正解にしたいわけではありません。
本人が「食べたい」と望むなら、その思いを大切にできる方法を考えたい。
一方で、食べることが本人の負担になることもあれば、ご家族の「食べさせてあげたい」という思いと、本人の思いが異なることもあります。
大切なのは、食べるという行為そのものではなく、その人がどう過ごしたいのか。
「どうすればできるか」を考えることと同じくらい、**「それは本当に、この人が望んでいることなのか」**を考えることも大切にしています。
臨床の知恵を、もっと遠くへ
臨床で経験し、考え、工夫してきたことを、目の前にいる患者さんやご家族だけで終わらせない。
専門家の中にある知識や、現場で生まれた工夫、役立つ商品を、必要としている人が使える形にして届ける。
食べることに困ったとき、ここに来れば何かヒントが見つかる。
少し希望が持てる。
次の選択肢を考えられる。
食リハキッチンを、そんな場所に育てていきたいと思っています。
