経管栄養になる前にできること。みかんが教えてくれた食リハのヒント

認知症のある方で、嚥下機能は保たれているのに食事が進まないケースがあります。
経管栄養への移行も視野に入る中、ある日試した“みかんの缶詰”が大きな転機となりました。
食べるという行為は、機能だけでは動かないことがあります。
今回は、その人の中にある「トリガー」が食事を動かした一例をご紹介します。
喉は大丈夫。でも食べてくれない。
嚥下機能は保たれている。
むせもない。咳も出ない。声もきれい。
それなのに、食事が進まない。
認知症のある患者さんで、そんなケースに出会うことがあります。
口は開けてくれる。
介助も拒否しない。
けれど、ひと口入れると——
まるで小動物が頬袋にため込むように、口いっぱいにためてしまう。
そして結局、かき出すしかない状態になる。
あるいは、口に入れた瞬間に、放物線を描くように吐き出してしまう。
喉の機能は保たれているのに。
このままでは経管栄養になってしまう。
そんな、もどかしい日々が続いていました。
そばにいた、お嫁さん
この方には、いつも寄り添うお嫁さんがいました。
とても熱心な方で、
食事介助も一緒に手伝ってくださっていました。
「どうして食べてくれないんでしょう」
責めるわけでもなく、
ただ、どうにかしてあげたいという気持ちがにじむ言葉でした。
食べることも、作ることも好きだったというお姑さん。
その方が、食べられない。
ご家族にとっては、
「何とかして、もう一度“おいしい”を感じてほしい」
そんな願いだったのだと思います。
みかんが起こした、ひとつの変化
ある日のこと。
食事についていた、みかんの缶詰。
ふと、思いました。
「先にこれを食べてもらってみよう」
すると——
咀嚼運動が起きたのです。
口の中で、ちゃんと噛んでいる。
その流れのまま、食事をすすめることができました。
もちろん、ずっと続くわけではありません。
効果が薄れてきたら、またみかんをはさむ。
リズムをつくりながら、少しずつ。
そうして食事量を保つことができました。
結果として、経管栄養へ移行せずに済み、
元気に施設へ退院することができました。
退院の日にいただいた手紙
退院の日。
お嫁さんから手紙をいただきました。
そこには、
「みかんの缶詰のアイディア、見つけてくださったこと本当に感謝しています」
と書かれていました。
みかんは、ただの缶詰かもしれません。
でも、ご家族にとっては、
「もう食べられないかもしれない」
という不安が、
「まだおいしく食べられる」
という希望に変わった瞬間だったのだと思います。
それは、栄養の問題だけではありません。
“一緒に食べる時間”が戻ってきたということ。
その意味は、とても大きいのです。
トリガーを探すということ
嚥下機能が保たれていても、
食べる行為はそれだけでは動きません。
味の記憶。
安心感。
感情。
その人の中にある“何か”がスイッチになることがあります。
時間はかかります。
すぐに正解が見つかるわけではありません。
それでも、
「この人は、何なら食べてくれるだろう?」
と問い続けること。
それは命をつなぐためだけでなく、
“ちゃんとともに過ごせた”と思える時間を守ることでもあるのだと思います。
高齢者では、アイスクリームがトリガーになる方も少なくありません。
その理由については、また改めて書きたいと思います。
まとめ
- 嚥下機能が保たれていても、食事が進まないことはある
- 家族にとって「食べられる」は大きな意味を持つ
- その人のトリガーを探すことが、経口摂取を守る鍵になることがある
食べることは、栄養だけの問題ではありません。
「ちゃんと一緒に過ごせた」
そう思える時間を支えること。
それもまた、食リハの大切な役割だと感じています。
