食欲がわかない理由は「香り」にある?―― 嗅覚・味覚と嚥下の深い関係

食が進まない背景にあるもの

―― 嗅覚・味覚の変化と食支援のヒント

食べる意欲や“おいしさ”には、嗅覚と味覚が深く関わっています。
摂食嚥下学会で学んだ、香り・味と食欲、嚥下機能との関係について、日々の支援に生かせる視点をまとめました。


はじめに

2025年日本摂食嚥下リハビリテーション学会学術大会に参加し、「嗅覚と味覚」をテーマにした講演を聴講しました。
嗅覚や味覚は“おいしさ”を感じるだけでなく、食欲や食べる意欲、そして嚥下機能とも深く関わる大切な感覚 です。

ご高齢の方、とくに認知症の方の中には嚥下機能に大きな問題がなくても、食が進まないことがきっかけで徐々に機能が低下していくケース もよく見られます。

今回は講演で得た学びをもとに、食欲と嗅覚・味覚との関係 についてまとめてみます。


嗅覚は「風味」をつくる大切な感覚

嗅覚は五感のひとつで、食べ物の香りを感じて“風味”をつくり出します。
おいしさを感じるとき、実際には 味覚だけでなく嗅覚が大きな役割 を担っています。

◆ 嗅覚の特徴

  • 嗅粘膜は再生能力が高く、神経細胞が常に入れ替わっている
  • 加齢により神経新生が低下し、嗅覚は衰えやすくなる
  • アルツハイマー病・パーキンソン病などの神経変性疾患では、早期から嗅覚障害が起こりやすい

そのため嗅覚障害は、神経疾患の早期診断や認知症発症予測のバイオマーカー としても注目されています。


COVID-19後遺症としての嗅覚障害

COVID-19による嗅覚障害は決して珍しくなく、障害部位や症状の程度によっては、数年単位で嗅覚低下が続くケース も報告されています。

現時点では特効薬はありませんが、

  • 栄養状態を整え神経再生を促すこと
  • いろいろな香りを日常的に嗅ぐ「嗅覚トレーニング」

など、嗅覚の働きを保つためにできる取り組みがあります。

鼻がつまると食事がおいしく感じにくいように、嗅覚は食欲に直結する感覚 です。
嚥下訓練の場面でも、香りや風味に注目する視点がとても重要だと感じました。


うま味は「5番目の基本味」

甘味・塩味・酸味・苦味に加え、2000年代に受容体が同定されたことで**「うま味」は第5の基本味** として広く認められています。

高齢者で味覚障害がみられる場合、うま味の感受性が低下していることがあり、その背景には

  • 口腔乾燥
  • 口腔カンジダ
  • 粘膜疾患

など複数の要因が関わることが知られています。

◆ うま味刺激の効果

繰り返しのうま味刺激には、

  • 唾液分泌量の増加
  • 味覚感受性の改善

といった効果が報告されています。

また、こうした変化は 嚥下・構音・咀嚼などの口腔機能にも良い影響 を与えることが研究から示されています。
“うま味” は単なる味の好みではなく、食べる力を支える大切な要素だと感じます。


まとめ:嗅覚・味覚への視点も「食支援」の一つ

嗅覚や味覚は、「食べる意欲」や「食べ続ける力」 を支える重要な感覚です。

  • 香りが感じにくい
  • 風味がわからない
  • なんとなく食が進まない

こうした背景には、嗅覚・味覚の変化が隠れていることがあります。

特に認知症の方は不快感を言葉にできないため、介助者からは「全然食べない」と見える場面もあります。
また、嗅覚や味覚が低下しているため、甘いものだけ食べる といった偏った食行動につながることもあります。

“なんでも食べてほしい” という願いは自然ですが、
その裏に 感覚の変化がある可能性 を知っておくと、食支援の視点が広がると感じました。

私自身も、風邪で鼻が利かないときや強い倦怠感があるとき、無理に食事を促されるとつらいと感じます。
その人の状態や感覚に合った食の選択肢が広がるよう、嗅覚・味覚にも目を向けていくことの大切さ を改めて実感した講演でした。


おわりに

今後も学会や講演で得た学びを、
日々の食支援に役立つ形でまとめていきたいと思います。


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