『胃瘻だけは嫌だ』と言われたときに知っておきたいこと― 経鼻胃管との違いとリスク ―

「以前から、胃瘻だけは嫌だって言ってたんです」
「以前から、胃瘻だけは嫌だって言ってたんです。」
選択を迫られたとき、家族からよく聞く言葉です。
口から食べられなくなったとき、残される選択肢は限られています。
そして、その決断を下すのは本人に代わって家族がすることが多い。
そのとき、胃瘻にはすでにネガティブなイメージが重なっています。
- 延命のための処置
- 寝たきりになる
- 自然ではない
一方で、経鼻胃管(鼻から入れるチューブ)は「とりあえずの方法」として受け入れられることが少なくありません。
けれど実際には、どちらも「口から食べられないときの代替栄養」という点では同じ医療です。
そして嚥下(えんげ)の視点から見ると、
経鼻胃管を長期に続けることにも、知っておきたい課題があります。
今回は、言語聴覚士としての臨床経験から、
- 経鼻胃管を長期に続けるリスク
- 胃瘻が必ずしも“悪”とは限らない理由
を整理してみたいと思います。
※医療的な適応の判断は、必ず主治医とご相談ください。
経鼻胃管と胃瘻は何が違うのか?
共通していること
- どちらも経口摂取が難しい場合の代替栄養
- 栄養状態を維持することが目的
方法は違っても、「栄養を確保する医療」である点は同じです。
大きな違い
- 経鼻胃管:鼻→咽頭→食道→胃へチューブを通す
- 胃瘻:腹部から直接胃へ通路を作る
見た目の印象は大きく違いますが、
嚥下の視点から見ると、身体への影響の出方も異なります。
経鼻胃管を長期に続けるリスク
経鼻胃管は短期的には有効な方法です。
しかし、長期留置になるといくつかの課題が出てきます。
① 嚥下機能への影響
チューブが咽頭を通ることで、
- 咽頭感覚の低下
- 嚥下反射の遅れ
- 喉頭挙上の制限
などが起こる可能性があります。
嚥下訓練を行う際にも、物理的にチューブがあることで評価や訓練が難しくなることがあります。
② 不快感と自己抜去
鼻から喉にかけての違和感は強く、
- 自分で抜いてしまう
- 再挿入が繰り返される
ということも少なくありません。
そのたびに身体的・心理的な負担がかかります。
③ 咽頭・喉頭への影響
長期留置では、
- 咽頭浮腫
- 粘膜障害
などが見られることもあります。
嚥下の観点からみると、必ずしも「やさしい方法」とは言い切れません。
④ 抑制が必要になることがある
経鼻胃管は違和感が強く、自己抜去が起こりやすい処置です。
そのため、安全確保の目的で抑制帯を使用せざるを得ない場面があります。
抑制帯とは?
抑制帯とは、医療安全のために、自分でチューブを抜いてしまうリスクが高い場合に、一時的に手の動きを制限する器具のことです。
決して「罰」や「管理」のためではなく、誤抜去や再挿入による身体的負担を防ぐ目的で使用されます。
しかし長期化すると、
- 手を使う機会が減る
- 活動量が低下する
- 残されていた手指機能が廃用に傾く
といった影響が生じることもあります。
栄養を守るための処置が、別の機能低下を招いてしまう可能性がある。
この点は、あまり語られませんが、現場では無視できない課題です。
胃瘻のメリット(嚥下の視点から)
胃瘻は腹部から直接胃へアクセスするため、
- 咽頭にチューブがない
- 嚥下訓練の妨げになりにくい
- 咽頭感覚への影響が少ない
という特徴があります。
栄養は胃瘻で確保しつつ、少量でも経口摂取を目指す。
そうした選択肢が取りやすくなるケースもあります。
胃瘻が“固定”とは限らないケースもある
胃瘻を造設したからといって、
必ずしも一生そのままというわけではありません。
体力が保たれており、嚥下機能の改善が見込める場合には、
栄養を胃瘻で確保しながら嚥下訓練を進め、
結果的に使用しなくて済むようになる方もいます。
もちろん、それは少数であり、
すべての方に当てはまるわけではありません。
それでも、「入れたら終わり」という単純な構図ではないことも、
知っておいてよい事実だと思います。
胃瘻=延命だけ、ではない
もちろん、胃瘻がすべての方に適しているわけではありません。
ですが、
「胃瘻は悪で、経鼻なら良い」
という単純な図式では語れないのも事実です。
医療は善悪で決めるものではなく、
その人の状態と目的によって選ぶものです。
胃瘻という言葉から、不安や抵抗を感じるのは自然なことです。
けれど、そのイメージだけで判断してしまう前に、
知っておいてほしいことがあります。
人生の大切な時間に関わる選択だからこそ、
焦らず、落ち着いて考えられる時間を持てますように。
次の記事では、「なぜ欧米では胃瘻が減っているのか?」をテーマに、エビデンスと文化背景の視点から整理します。
