冷たい水と温かいお茶、どちらが飲み込みやすい? 飲み物の温度と嚥下の関係

はじめに

暑い日には冷たい水、寒い日には温かいお茶。

私たちは、その日の気温や気分にあわせて、飲み物の温度を選んでいます。

では、飲み物の温度によって「飲み込みやすさ」が変わることはあるのでしょうか。

今回は、飲み物の温度と嚥下の関係について、実際の研究を交えながらご紹介します。

飲み物の温度と飲み込みやすさ

水やお茶などのさらさらとした飲み物は、嚥下障害のある方にとって、むせやすいもののひとつです。

飲み物が喉へ流れ込むタイミングに、飲み込むための動きが間に合わないと、気管に入り込んでしまうことがあります。

水分がむせやすいメカニズムについては、こちらの記事で紹介しています。

関連記事:とろみ剤はなぜ必要?|むせを減らす仕組みと上手な使い方

冷たい水・温かい水と嚥下反射

飲み込みの動きを引き起こす重要な仕組みのひとつが「嚥下反射」です。

飲み物の温度と嚥下反射の関係については、これまでにさまざまな研究が行われています。

1998年に発表された健康成人14人を対象とした研究では、冷水と体温に近い水を比較しましたが、その後の飲み込みにかかる時間に明確な違いは確認されませんでした。

一方、2007年の研究では、健康な成人40人を対象に、冷たい水(8〜10℃)、常温の水(23〜25℃)、温かい水(58〜60℃)を比較しました。

その結果、常温水に比べ、冷水と温水の両方で、飲み込みに関わる咽頭期の反応開始までの時間が短くなることが確認されました。

このように、温度による刺激が嚥下に影響する可能性は示されていますが、研究によって結果は異なります。

炭酸水と飲み込みやすさ

臨床の場では、嚥下障害のある方から「炭酸が飲みたい」「昔はビールが好きだった」という声を聞くことがあります。

炭酸飲料は、あのシュワシュワとした刺激も魅力のひとつです。

実は、この炭酸の刺激と飲み込みの関係についても研究が行われています。

炭酸水と嚥下の関係

海外では、炭酸水が飲み込みに与える影響について、いくつかの研究が行われています。

2012年の健康成人39人を対象とした研究では、普通の水よりも炭酸水の方が、決められた時間内に飲み込む課題の成功率が高くなりました。

また、2016年の健康成人16人を対象とした研究でも、炭酸水の方が課題の成功数は多くなりましたが、飲み込みの反応時間には明確な違いがありませんでした。

一方、国内の2021年の研究では、健康成人29人に水・炭酸水・サイダーを飲んでもらったところ、炭酸水が最も飲み込みにくいと評価され、飲み込む量も少なくなりました。

このように、炭酸の刺激が飲み込みの働きに影響する可能性はありますが、飲み込みの反応と、本人が感じる飲みやすさは必ずしも一致しません。

炭酸の刺激を心地よく感じる方もいれば、刺激が強くて飲みにくいと感じる方もいるでしょう。

美味しいと感じることも飲み込みに影響する?

飲み物の温度や炭酸の刺激だけでなく、「美味しい」「好き」という感覚も、飲み込みに関係しているのでしょうか。

1989年に発表された健康成人男性5人を対象とした研究では、水とさまざまな味のついた液体を比較し、味の刺激によって嚥下反射が起こるまでの時間が変化することが示されました。

ただし、味の刺激が嚥下反射に影響することと、本人が美味しいと感じることで飲み込みやすくなることは、必ずしも同じではありません。

炭酸水についても、炭酸の刺激そのものだけでなく、飲み慣れていることや、好きな飲み物であることが関係している可能性はないでしょうか。

美味しさと嚥下の関係については、以前の記事でも紹介しています。

関連記事:「その人にとって美味しい」が嚥下を助ける

飲み込みやすさは人それぞれ

今回紹介した研究はいずれも健康な成人を対象としており、嚥下障害のある方に同じ効果が得られるとは限りません。

嚥下障害のある方が飲み物の温度や種類を変える際には、嚥下機能に合わせた判断が必要です。

しかし、今回ご紹介した研究から、飲み物の温度や炭酸、味の刺激が、飲み込みの働きに影響する可能性があることが分かります。

好きなものをあきらめなくても良いかもしれない、「美味しい」がその人の飲み込みを助けることもあるかもしれません。

次回は、私が実際に試してみた炭酸飲料用のとろみ剤をご紹介します。

参考文献

  1. Bove M, Månsson I, Eliasson I. Thermal oral-pharyngeal stimulation and elicitation of swallowing. Acta Otolaryngol. 1998;118(5):728–731.
    https://doi.org/10.1080/00016489850183269
  2. Selçuk B, et al. Effect of temperature on electrophysiological parameters of swallowing. J Rehabil Res Dev. 2007;44(3):373–380.
    https://doi.org/10.1682/jrrd.2006.08.0089
  3. Michou E, Mastan A, Ahmed S, Mistry S, Hamdy S. Examining the role of carbonation and temperature on water swallowing performance: a swallowing reaction-time study. Chem Senses. 2012;37(9):799–807.
    https://doi.org/10.1093/chemse/bjs061
  4. Elshukri O, Michou E, Mentz H, Hamdy S. Brain and behavioral effects of swallowing carbonated water on the human pharyngeal motor system. J Appl Physiol. 2016;120(4):408–415.
    https://doi.org/10.1152/japplphysiol.00653.2015
  5. Takeuchi C, Takei E, Ito K, et al. Effects of Carbonation and Temperature on Voluntary Swallowing in Healthy Humans. Dysphagia. 2021;36(3):384–392.
    https://doi.org/10.1007/s00455-020-10147-6
  6. Shingai T, Miyaoka Y, Ikarashi R, Shimada K. Swallowing reflex elicited by water and taste solutions in humans. Am J Physiol. 1989;256(4 Pt 2)–R826.
    https://doi.org/10.1152/ajpregu.1989.256.4.R822

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